hiyodori_patransの特許翻訳日記

特許翻訳のあれこれを綴るブログです。

Google翻訳は仕事を奪うのか

PCT移行用の翻訳案件がめっきり増えましたね。

翻訳するPCT明細書って、たいてい公開になっているので、Google翻訳が存在していることも多いです。その翻訳文も、まあいろいろ問題はありますが、何を言っているかはわかるという、なかなかの優秀さ。

 

これを機械に仕事を奪われる脅威ととるか、便利になったね、ととるか。

 

 

以前、特許庁のオフィスレターを訳していたときのことです、

審査過程で、審査官が、

「関連案件の日本出願の公報を Google翻訳で見たのだが、これこれこういうところが気になるので、信頼ある翻訳文を送ってくれ」と書いていました。

 

翻訳者の署名付き翻訳(certified translation)を求められているのはないかと思うのですが、これだけ見ると、まだまだ機械より人間が信頼されているんですね。

現時点では当たり前のことですが。

 

機械翻訳(AI翻訳というのでしょうか)でOKとなれば、原文は人間が草稿しているとしても、機械が作成した訳文に基づいて権利範囲が確定されるということになり、何となく違和感を感じます。

 

AIが自己学習した結果、何かを発明することはあるのか、

そもそも、「発明」とは人間の創作とは規定されてない、

膨大なデータから学習して適切な訳文を作成するのは、人間よりAIの方が優れているのではないか、

 

疑問はつきません。

 

EPOでは、2012年にすでにGoogleと提携して機械翻訳サービスを提供していますが、だからといって、これで特許翻訳の仕事がなくなったわけではありません。

今の機械翻訳の位置づけとしては、多言語の先行技術や関連技術を読むことができるというもの。

 

www.epo.org

 

一方で、翻訳する人によって精度のばらつきが出ないように、技術者も明瞭な日本語を書こうという試みもなされていますが、そもそも、英語の構造と日本語の構造や思考回路が大きく異なるので、これができる技術者は英語も相当に書ける人ではないかと思います。

機械翻訳になじみやすいように、あるいは英語の思考回路になじみやすいように、日本語教育そのものも変えていくという可能性もありますが、日本語のよさが失われていくのではないかと危惧されます。

 

例えば、夏目漱石の「坊ちゃん」の冒頭。

 

 親譲おやゆずりの無鉄砲むてっぽうで小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰こしを抜ぬかした事がある。なぜそんな無闇むやみをしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談じょうだんに、いくら威張いばっても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃はやしたからである。

 

主語が、ずっと出てきません…。でも、ここで、明確性のため「僕は」とか「俺は」とか書いたらどうなんでしょう。

 

文学的は作品を書くときは日本語らしく、技術文書を書くときは、英語らしくという、ダブルスタンダードでいくしかないのでしょうか。

 

 

話が脱線しましたが。

 

少し考えただけでも、Google翻訳に奪われるほどになるには、まだまだ検討事項が山積しているはず。

技術的に可能だとしても、機械翻訳を全面的に受け入れるように社会を整備し制度の統一をはかっていくのには、なかなか時間がかかるのではないでしょうか。

 

機械翻訳を手直しするなら、自分で訳したほうが早いとか。

翻訳者がいらないのであれば、誰が内容をチェックするのか。

機械まかせになってしまえば、いざとなった時に英訳を出来る人はいるのか。

どのような訳文をよしとするかは、結局 人間の判断ではないのか。

 

個人的には、AIとのコラボレーションというやり方が良いかなと思います。

「Aは、BやCを含む」といった誰が訳しても同じ構文の訳文や、物質名、分野で使われる標準的な訳語の選定は、機械にやってもらうと楽でしょう。

参照番号の誤りや訳抜けも、機械ならばないでしょう。

 

とはいえ、わが身を振り返れば、まだまだ手作業にたよることが多いのも事実。

社会の整備を待つ前に自分を整備しなくては!